元カレバンドDX

 2度目のレコーディングは、コーラスを録るからという理由だった。

 コーラスとは、いわゆる「ハモリパート」のことで、あたしはこの日のために練習をしていた。

 前回と同じように、駅まで車で迎えに来てくれた北斗の様子をあたしは窺う。

「次の舞台はね~、時代劇みたいにしようかなって思ってるんだよね~」

「あ、そうなんですか」

「もしよかったらまた観に来てよ」

「あ、はい、ぜひ」

 軽やかにハンドルを回す北斗に、なにも変わった様子などない。

 変に意識しているのは、あたしだけみたいだ。

 北斗の家に着き、中へとお邪魔する。

 2度目になると、どんなすごい場所でも慣れてしまうのは、ちょっと寂しいことだ。

「また紅茶でいい?コーヒーもあるけど」

「あ、紅茶で大丈夫です!」

 それにしても、男性にもてなされると、お姫様になったような気分になる。