元カレバンドDX

 緊張と興奮でガチガチのあたしは、ソファーに浅く腰掛けた。

 少し経つと、北斗が紅茶を持ってやって来て、そっとあたしの前に置いた。

「あ、ありがとうございます!」

 あたしは、高級そうなティーカップを持って、ひとくち飲む。

 なんだか紅茶まで高そうな味がした。

 というか、男の人が紅茶を入れるなんて、あたしの中では大事件だ。

 そんな男の人に、今まで出会ったことがない。

 目の前にある作業用の回転イスに座る北斗は、なにをとっても別世界の人だった。

「とりあえず、1回歌ってみる?」

「あ、はい!」

 カバンの中から歌詞を書いた紙を取り出して1枚渡す。

 歌詞を受け取った北斗は、ボーカルブースを指差して「あそこでヘッドフォンつけて歌ってね」と優しく教えてくれた。

 北斗のいるパソコンのモニターや音楽機材がずらりと並ぶデスクから対角線上にボーカルブースと教えられたスペースがある。

 自分用の歌詞を持ちその中に入ると、そこはちょうどトイレの1室みたいな感じだった。

 ドアを閉めて密室にし、ヘッドフォンをつけると北斗の声が聞こえてきた。

「聞こえる?」