元カレバンドDX

「あの、今日は本当にどうもありがとうございました!!」

 再度お礼を言い、今度は間近で見れる北斗の顔を焼き付けるように見た。

 だって、もう会えないかもしれないのだ。

 シンデレラのように、きっと夢は覚めてしまう。

「これからもよろしくね。陽愛」

 にっこりと笑って、右手を差し出す北斗に、あたしの身体は電気が走ったような衝撃を受けた。

「あ、は、はい……」

 恐る恐る右手を出して、北斗の手と重ね合わせる。

 こんな風に握手を求められるのは初めてのことだ。

 あたしは、釘づけになって北斗の顔を見た。

 この夢は、もしかしたらまだ続くのかもしれない。

 そんな予感に期待を馳せて、あたしは笑顔でさよならをした。

 「夢」が「夢でなくなる」瞬間。

 それは「現実」だと思い込んで脳が働く瞬間。

 ひょっとすると、すべての人に、シンデレラストーリーは用意されているのかもしれない。

そんなあたしのストーリーは、ここから始まろうとしていたーー