元カレバンドDX


 深い夜はまだまだこれから……
 
 あたしは、とてつもない幸福感に身をゆだねて、北斗のステージに期待を寄せた。

 少しすると、ステージに照明が当たり、北斗が姿を現した北斗がピアノの前に立つと、お客さんが一斉に静まり返る。

 ほとんどの人が北斗をお目当てにしているようだった。

 北斗がピアノを弾き始めると、すべての人がその音色に身をまかせた。

 平然とした顔でその空間を支配する北斗はまるで神様だ。

 オレンジ色の暖かい光に包まれたステージ。

 その光の中でしなやかに揺れる北斗。

 その北斗の奏でる音に聴き入る人たち。

 誰もが、北斗のライブに酔いしれていた。

 もちろん、あたしも例外ではない。

 北斗の弾くピアノの音色を脳髄にまで染み渡らせ、別世界へトリップするのだった。

 そんな北斗のライブも終わり、オールナイトイベントもそろそろお開きになる頃、あたしは始発電車で帰ろうと、ラウンジの中で北斗を探した。

 北斗に預けていたジャケットを返してもらおうと思ったからだ。