元カレバンドDX

「なにがいい?おごるよ」

 暗い照明の中でも、北斗の短髪で、シルバーアッシュのヘアスタイルはよく映えた。

「あ、ありがとうございます!!じゃあ、えっと、グレープフルーツジュース……で……」

「了解」と言って、バーカウンターに立つ北斗の背中を見て、胸がはちきれそうになる。

(あの北斗さんに、ごちそうしてもらえるなんて……)

 少し経って、グラスをふたつ持った北斗が戻ってきた。

 北斗は、あたしの斜め横に座って、グレープフルーツジュースを手渡すと、「じゃあ乾杯」と言って、軽くグラスを重ねた。

 あたしはこれが夢じゃないのかと疑いたくなる。

 斜め横で微笑んでいる北斗は、3次元の生身の姿なのだ。

「あの、なんでイベントに誘ってくれたんですか?」

 聞いたあと、すぐに愚問だと感じた。

「なんでだろうね」

 なんて言って笑う北斗の横顔がハートに突き刺さる。