元カレバンドDX

 あたしはすぐには下りず、その場で鏡を出し、化粧のチェックをした。

 そして、なにげなくスマホを確認すると、時刻は午後8時を少しまわった頃だった。

(まだちょっと早かったかな……)

 今日のイベントは、オールナイトイベントということで、朝まで開催されると知らされている。

 オープンが8時だと聞いていたので、その時間に合わせてきたのだが、もしかしたらこんなに早く来なくてもよかったのかもしれない。

 なんて、またあたしは不安になる。

 ジャズバー未経験のあたしにはやっぱり勝手がよくわからない。

 けれど、もうここまで来てしまったのだから……と、あたしは意を決して、階段を下りた。

 階段を下りると、受付のところにひとりの男性が立っていた。

 その奥からは、低音の効いたウッドベースの音が聞こえてくる。

「すみません。あの『陽愛』でゲストに入ってると思うんですけど……」

「はい?もう1度いいですか?」

 オシャレなスーツを着た男性は、あたしの小さな声が聞き取れなかったみたいだ。