一番近くて 手の届かない君へ

俺はパスタを盛ったお皿を二つテーブルの上に置いた。


「おい亜里沙。もう少しテーブルの上整理しろよ」


「ごめーん。手の届くとこにないと面倒くさいの」


と亜理沙はケロッとして言う。


俺はフォークとグラス二つとウーロン茶のペットボトルを持ってきた。


何とか隙間にグラスを置いてウーロン茶を注いだ。


「ほら どうぞ」


と俺が言うと亜里沙は待ってましたとばかりに


「いただきまーす」


と言ってナポリタンにパクついた。


「わー、やっぱり美味しい」


と亜里沙は愛くるしい笑顔を俺に向けた。


この笑顔はマジで可愛い。


「亜里沙は可愛いね」


とつい言葉を漏らしてしまう。


「嬉しくないわ。そんな言葉いろんな人に言ってるんだから」


と亜里沙は頬を膨らませながらパスタをほおばる。


「褒めて文句言われるとはね」


と俺はフォークにパスタをくるくる巻いて口に運んだ。


「ふふ。でも憎めない。そこが雫の特技だからなぁ」


と言いながら亜里沙は美味しそうにナポリタンを食べた。


「特技ねぇ」


と俺はウーロン茶を口に流し込んだ。


(褒めらる事を好むのは人間の特技だろ)


なんて思った。




子供の頃の俺は母親がどんなにまずい食事を作っても、


どんなにみすぼらしい恰好をしても、必ず褒めた。


『ママ、凄く美味しい』


『ママ、綺麗だよ』


と褒めた・・いや、お世辞かな・・。


そうすると母親は悲しげな表情をして微かに微笑んだ。


俺は母親が喜んでくれたと思った。


それが逆に母親を追いつめていたとも知らずに・・。




「ご馳走様。あー美味しかった」


と亜里沙は満面の笑顔でフォークを置いた。


その時 亜里沙のスマホが鳴った。


手に取りディスプレイを見て


「恭吾から」


と俺を見た。


「出なよ」


と俺は当たり前のように言った。



「もしもし?___うん・・。


 今ね、里香が来てるの。


 ご飯作ってくれて・・うん、食べ終わったら帰るから。


 あと1時間位したら来てくれる?


 ___うん。わかった・・待ってるね」


と言って亜里沙は電話を切った。



「冷却期間はもう終了?」


と俺はからかうように聞いた。


「ごめんねー、雫。」


と亜里沙は俺に両手を合わせた。


俺は別に平気な顔をして煙草に火をつけた。


「これ吸って お皿洗ったら帰るよ」


と煙をはいた。


「ほんとにごめんねー。


 バイトまでまだ時間あるでしょ?


 どうするの?」


とアホな質問をしてくる。


「適当に時間潰すから大丈夫だよ」


と俺は笑顔で答える。


「ごめんね。呼んどいて追い返すようで・・」


と亜里沙は珍しく神妙な顔をした。


「はは。何を今更」


と俺は煙をはいて 煙草を消した。


そしてお皿を片付け始めた。


「あ、私が洗う」


と亜里沙が慌てて立ち上がろうとした。


俺はそれを制して


「ベッド直して着替えたら?」


と言ってお皿を洗いはじめた。


「・・雫」


と背中に亜里沙の静かな声が聞こえる。



(こういうのも慣れっこなんで)


と俺は心の中で舌を出した・・。