一番近くて 手の届かない君へ

ガチャンと玄関の鍵がロックされる音が聞こえて、俺の顔から笑顔が消えた。


一人置いてけぼりを食ったような気分に襲われた。


お腹がグウッと鳴った。


俺はキッチンへ行ってみた。


大きな冷蔵庫を開けると、以外にも食材がいっぱい入っていた。


これなら ある程度のものなら何でも作れる。


(いつ来るかわからない彼の為に用意してあるのか・・?)


そう思ったら沙耶に料理を作ってやりたくなった。



こうみえても俺は料理が出来る。


いつも台所に立つばあやにまとわりついていたから、見て覚えてしまったのだ。


俺は袖をめくって手を洗った。


そしてカウンター式のキッチンで料理を作り始めた。


(メニューは・・あっためてすぐ食べられるもの)




俺はばあや直伝の肉じゃがを作った。


見ると フランスパンがあったのでそれをかじりながら久しぶりに作った肉じゃがを食べた。


(うん、美味い)


と俺は一人頷いた。


鍋にはちょうど二人分位が残った。



俺はペンとメモ用紙を見つけてダイニングテーブルの上に置いた。


<良かったら彼氏と食べて>


とスラスラと書いた。



(うーん・・もし彼氏が来なかったら 嫌味かな・・?)


と思ったけど、そのまま置手紙をおいた。



バイトまで後 2時間ぐらいあった。


俺は煙草に火をつけてスマホをいじった。


大きなテレビがあったけどつける気が起きなかった。


ウェブ漫画でも見ようかと思ったら、間違ってタップして小説サイトに飛んでしまった。


履歴に残っていたのか、著作名”胡桃1210”が出てきた。


俺はソファに寄り掛かった。


(確か痛い小説描く人)


と思ったけど、アップされたばかりらしい”胡桃1210”の小説を読んでしまった。


これは短編だったからすぐに読み終わった。


あとがきに 胡桃1210の コメントが載っていた。


<自分でも切なくなりながら書いてしまいした。読んで下さった方ありがとうございます。>


俺はそれを読んで


(どこが切ないんだよ!!)


と腹が立った。


(こんなあり得ない中途半端な自己犠牲の話なんか胸くそ悪い!)


と思ってしまい、つい感想ノートに書き込みをしてしまった。


<こんなのあり得ない。男の気持ちも女の気持ちもわからない。>


と・・。



俺はコーヒーを入れて煙草を吸った。


なんかイライラした。


この部屋を出るまで後30分となろうとした時、俺はスマホを手に取った。


この時どうして そうしたのかよくわからない。


ただ、胡桃のコメントを読んでしまった。


それは、俺の書き込みに真摯に答える胡桃からのメッセージだった。