彼女の小説を読んだのは、本当に偶然だった。


その時の事はもう覚えていないくらい。


携帯小説に”飛んで”しまった俺は そのまま適当にタップして、ある小説を読み始めた。


タイトルは・・覚えてない。


ただ、夜中だったと思う。


情事を終えて帰って来た俺は、虚無感に侵されながらスマホをいじっていた。


くわえ煙草のまま横になって、偶然”現れた”小説を読んだ。


内容は、ヒロインの自己犠牲から始まり、酷い目に合いながらも、微かな希望を刹那に生きている物語。


はっきり言って暗い。


ここまで主人公を痛めつけるのか?って思った程。


最後は、好きな男に助けられてハッピーエンドになるけど、


(なんだか 痛いな)


それが俺の率直な感想だった。



携帯小説だから、読みやすい。


スラスラとあっという間に読めてしまう。


俺はその小説の作家”胡桃(くるみ)1210”という人のプロフィールを見た。



<育児と家庭菜園の合間に妄想書いてる主婦です。


 よろしかったら感想お願いします>


と載っていた。


俺は感想ノートをタップした。


<あんまりヒロインが酷い目に合うんで途中飛ばして読んだ。


 ラストはハッピーエンドで良かったです>


と載せてしまった。



時計を見ると、夜中の2時を過ぎていた。


俺はスマホを充電器にセットしてベッドへ潜った。



明日は学校。


朝8時に起きるしかない。


禁断の情事をした後に読んだ、痛い小説・・。



俺は不快な気分にも似た重いまどろみの中、眠りについた・・。