「あの譲の顔!!
 ほんと最高だったわっ」


そう言いながらテーブルを叩き爆笑する蜜華は誰がどう見てもおっさんにしか見えないな



あの『離婚』発言から数時間後


もう何度この台詞を聞いたか分からないが,少なくともお酒が入ってから笑い方が酷くなったのは確か


横で笑顔で相槌を打ってる優はともかく,絡まれてる楓が少し可哀相な気がしないでもない



「大丈夫ですか?」


やっと蜜華の手から逃れられた楓はリビングの隅っこで膝を抱えてる私の元に来た


意地を張って『何?』と冷たく返そうと思ったけど,楓の本当に心配そうな顔を見てもう一度顔を伏せた


正直……後悔してる


頭に血が昇ってたにしても“離婚”と口にしてしまったことを


あの後の譲の顔を思い出すと胸が締め付けられる


今にも泣き出しそうな……



「泣かないでください」


厳しさの中に優しさを含んだ声が頭上から降ってくる