「あ、きた」



そんななごみの声が聞こえたのは、それから5分後。



「いつ見てもかっこいい」



教室に入ってきたのは高来先生。

私の大好きな、片想い中の相手。


私は先生に熱い視線を送る。

先生がふと、こちらを見た。



「……」



でも私はなにも言わない。

教室はザワザワしてるから、なにか言っても私の声はかき消されてしまう。


先生は私をじっと見つめる。

というよりも私の中の誰かを見ているような……そんな感じ。



ーーーキーンコーンカーンコーン…



私たちが暫く見つめあっているとチャイムがなった。先生はそれで我に返ったように私から目を離した。



「はぁ」



さっきのは偶然。
先生は私を見ているようで見ていなかった。


なにを、見ていたの?



「はい。教科書開いてください」



心地よい低音が先生の口から発せられる。


ハニーブラウンのくせっ毛。色素の薄い瞳。

あのときと違うのは、常に敬語口調なところだけ。


あのときは、あんなにも……



「風音さん?」

「…え?」



私が俯いてあのときのことを思い出していたら名前を呼ばれた。
しかも、それは先生の声で。



「教科書、開いて」

「あ、はいっ」



現金な私はそれだけでテンションが上がり、今まで考えていたことは頭からすっ飛んでいった。