「俺は小さいときに母親を失った。病気だった。それからは父子家庭で育った。その父親も俺が中学の時に死んだ」
先生の口から聞かされる話。
それはとてもじゃないけど明るく話せるないようなんかじゃなくて。
先生の顔は暗かった。
「それからだった。凛…彼女と出会ったのは」
先生はさっき私が触れようとした写真立てを見せてくれる。
漆黒の髪をサイドに纏めて。
肌が白いからか余計に漆黒に見える瞳。
この人が、先生の元カノ。
私に似てる? どこが?
正直にそう思った。私と彼女じゃ纏う雰囲気が違いすぎる。写真でも分かるくらいに。
「写真ではそんな感じだけど…普段はものすごくお前に似てたよ」
先生は顔の表情を緩めながら、思い出すように言った。
先生をそんな顔を出来るのは凛さんだけ。
私には出来ない。
先生の言う “似てる” がよく分からない。
「俺も凛も初恋だった。付き合いだして、色んなことをして、俺たち結婚しようって何度も誓いあった」
…どういう気持ちで聞けばいいんだろうか。
好きな人の他の人との恋愛話を。
聞くんじゃなかったと後悔してももう遅い。
いや、後悔なんて、しない。
「でも…大学生の時、凛が死んだ」
「っ」
「事故、だった。俺はその場にいた。いたのに、助けることが出来なかった」
先生の目からは涙が溢れて、零れる。