いまはむかし、昭和の時代ーーー

「はい、あなた」

折りたたみ式のテーブルを挟んだ向かいに正座している漆黒の髪に黒目がちな大きな瞳をしたお人形のように可愛らしい男の子が、砂の入った赤いプラスチックのお茶碗を差し出す。

メチャクチャ広いみっくんの家の庭にそびえ立つ銀杏の樹の下に敷かれたビニールシートのうえで、おままごとしている。

「ありがとう」

私はうむ、と偉そうに頷きそれを受け取る。

「ねぇ、ふつう逆なんじゃない?」

私達を見て、縁側に座っているお母さんが突っ込んで来た。

「いいのぉ!今日はみっくんがママでみわがパパなんだから!」

大人に口出しされ私はぷくっと頬を膨らませる。

「ね!みっくん!」

みっくんは、はにかみながらこくりと頷いた。

「はいはい」

お母さんは肩を竦め軽く受け流すと、みっくんママと再び大人のお喋りに興じる。

「あの、あなた…」

みっくんは摘んで来たシロツメクサでお料理をするふりをしながら言いづらそうに切り出す。

「どうかしたか?」

私は父親の威厳を保ったまま聞き返す。