「あんたが珍しく作った栗の渋皮煮!美味しく出来たから赤城さんにもお裾分けしてあげなさい。いつも旅行に行ったお土産貰ってんだからついでにお礼も言って!」

母はなおも私に紙袋を押し付けてくる。

「お母さんが行けばいいじゃん」

「あんたが作ったもんはあんたが届けるのが常識だろ!」

…なにー、その無茶苦茶な理屈。

そう思っても億劫で言い返す気にもならない。

お隣の赤城さんの家までは徒歩二秒。

しつこく母親にまとわりつかれるくらいなら、此処はいっそ届けた方が楽だ。

「わかったよぅ」

私はのろのろと起き上がると紙袋を受け取った。

玄関に行きクロックスを突っかける。

ふと玄関の姿見鏡に映る自分と目があった。

Tシャツとデニムという味も素っ気もない家着を身に纏い、後ろで一つにまとめた長い髪もボサボサしている。

まぁいっか。どうせお隣に行くだけだし。

表へ出ると初秋の太陽が眩しくて思わず目を細める。

五歩で目的の赤城さんの家に到着。

立派な門構えの重厚な日本家屋。お隣なのに普通の中古物件である我が家と全然違う。