それがまさか、自分の彼氏と出来ちまうとはな。

私は頭が真っ白なまま無言でテーブルに手を掛ける。

ありったけの力を込めてそのままひっくり返した。

大きな音をたてて食器が四方に飛び散る。

夕飯が飛び散って床はぐちゃぐちゃ。

まさかのちゃぶ台返しに彼は呆然とする。

三つ子魂百まで、とは昔の人はよく言ったものだ。


数日後、彼はマンションから荷物を纏めて出て行った。

家財道具はいらないから全て持ってっていいよ、と言ったら本当に全部持って行きやがった。

ガランとしたマンションに返る度にやるせない気持ちになった。

会社でも私は腫れもの扱い。


「こんなことになって大槻さんには本当に申し訳なかったと思ってる」

誘われて会社近くのカフェで二人きりでランチを食べに行った時、緑川さんはそう言って悲しそうに目を伏せた。

しかし、その左手薬指にはダイヤモンドのリングが光っていた。

本当にそう思っているのなら、せめてこの時くらいは外してくる配慮をしてほしかったんだけどな。

私は「はぁ」と腑抜けた返事をしただけだった。