本格的に梅雨入りした。


湿気がすごすぎる。

髪がきまらない気がする。



とにかく……雨がうざい。



大学は夏という一大イベントを前に、学生が盛り上がりを見せていた。


「花火とかよくないですか?」


尋乃もその一人。


授業が始まってからずっと、夏の行楽特集の情報誌をめくりながら浮かれ気分で言っている。



まだ、


『別れよう』


その一言が言えてない。


ここぞというとき、俺は意気地が無くなる。



俺の悪い癖……。



気持ちばかり焦って、微妙に尋乃を避けながら日常をこなしている。


言わないと何も変わらない。


それがわかっていながら、その一言がなかなか言い出せない。


自然消滅とかしてくれれば、どんなに楽なんだろう……。


なんて、そんな卑怯なことさえ思ったりする。



「良平先輩? 聞いてます?」


「え? ……あっ、あぁ、花火か」


「行きたいんですけど」


「いやー……俺さ、人ごみ苦手なんだよね。気持ち悪くなるし」



遠回しで断る俺。


『気持ち悪くなるし』とか、わざと貧弱なことを言ってみる。


引いてくれないかな……なんて思いながら。



「人ごみがいいんですよ、花火大会は」


「え、疲れるじゃん」


「何言ってるんですか、疲れないですよ」



お構い無し。……といった感じ。


『貧弱アピール作戦』は効果無しだった。



事あるごとに自分を落として、


『俺なんかよりもっといい男はいるよ』


と、アピールするけど未だに効果が得られない。



やる気はないし、他の女に気がいってる俺なんか、どこがいいんだかって思う。