「何?」


「……良平くんは、何でも知ってるね?」


亜希は満面の笑みを浮かべてそう言った。


その表情には素直な気持ちが溢れているように見える。



……そんなことない。



亜希の全てを知ってるわけもないし、知らない部分だってたくさんある。


ただ少し、俺は亜希といた時間が長いだけ。


でも、全てを忘れてしまった今の亜希には『何でも知ってる』と思われても不思議なことではなかった。



「亜希がわからないこと、もっと教えてね?」


「おぅ、任せとけ」




そんな俺も、

人が変わった気がする……。



亜希が記憶を無くしてから、素直に優しくなれた。


亜希が記憶を無くしてから、『亜希』とちゃんと呼べるようになった。




それに……


亜希を真っすぐ見れるようになった。




「亜希に『良平くん』とか呼ばれるの、何か変な感じすんな」



そう言うと、亜希はまた首を傾げる。



「前はさ、『良ちゃん』とか『良平』って呼んでたんだよ、亜希は」


俺はそう言って、亜希の頭をぽんぽんと優しく撫でた。


その手でそのまま、亜希を抱き締めたくなる。


そんな衝動にかられた。



俺は……やっぱり亜希が好きだ。



記憶が無になっても、その気持ちだけは変わらない。



先生は言っていた。


記憶を突然、取り戻すかもしれない。


それは医者である自分にもわからないし、誰にもわからない……と。


全ては未知で、先は見えてない。


今、明日、明後日……。


何かの拍子に記憶が戻ってくるかもしれない。



それとも……永遠に戻らないかもしれない。



でも……


俺は亜希のそばにいる。



それだけは、何があっても変わらない。





「来てたんだ」



声がして振り向くと、開いた扉の前に秀が立っていた。