でも……

亜希が全てを思い出せなくても、俺が忘れなければいい。


わからないことは、また一から教えていけばいい……。


俺らまで不安な顔をしたら、きっと共倒れになる。


この世のもの全てを初めて見る亜希の方が、誰よりも不安なはずだ。



亜希の爪が目に入った。


『427』の文字。


あのとき言ったことを思い出すと何だか息苦しくなった。



『お前は忘れっぽいからな』



よくそんなことを言って亜希をからかっていた。


その度に『良ちゃんに言われたくない』なんて亜希は反論していた。


そんな普段の冗談も、今更悔やまれてくる。



忘れっぽいなんて、

言うんじゃなかった……。


亜希は本当に……

全てを忘れたんだ……。



掛け布団の上で揃っている手にそっと触れてみる。

血が通う、温かさがあった。



生きててくれて……


ありがとう……。



俺は亜希を生かしてくれた誰かに感謝した。



「ごめんな……」



俺は謝っていた。