何分…
何秒……。
どのくらいの時間が経過したのかわからなかった。
ただ薄らと目を開くと、見えてきたのは外灯に照らされキラキラと光る罅割れたフロントガラスだった。
雨に濡れた蜘蛛の巣のように光を吸収している。
身体が……動かない。
一体何が起こったのか、頭で考えることができない。
事故が起きた。
それだけが唯一わかることだった。
対向車のトラックが車線を越えて走ってきて…
咄嗟にハンドルをきった……。
そこまでを思い出すだけで精一杯。
思うようにならない身体を何とか傾けると、さっきまで横で騒いでいた良平がぐったりとしていた。
「おぃ……良平」
声にならない声で呼び掛ける。
その声が届いたのか、良平は力無く薄目を開けた。
気付いた。
それだけが混乱する中で俺を救う。
「ぃってぇ……なにが、起こったんだよ……?」
今まで聞いたことのない良平の弱々しい声。
その消えかかった声に俺は返事もできない。
「亜希……は?」
出ない声を必死に絞り出すように良平は言った。
亜希……そうだ……
亜希は――!?
衝撃で曲がったルームミラーを目を凝らして見ると、動かない亜希の姿が目に入った。
乱れた髪が顔に掛かり、髪で隠れた額からは赤々とした血液らしきものが鼻筋を通って流れて見える。
「亜、希……」
意識が朦朧とする中、車に近寄って来た人々の騒がしい声が耳に入ってくる。
「兄ちゃんっ、大丈夫か?!」
「おい、誰か! 救急車呼んでくれ! 人が三人乗ってる!」
その声を聞きながら俺の意識は遠退いていった。