ルームミラーで後部座席を見ると、亜希はうつろな目で窓の外を眺めていた。
「亜希、眠かったら寝てていいぞ?」
声を掛けると、亜希は身体を起こして首を横に振った。
「お子ちゃまだなー、もう眠いのかよ」
良平の余計な一言に亜希が身を乗り出す。
「うるさいなぁ、眠くないもん!」
ふくれた顔がまた可愛い。
「ねぇ、これからどこ行く?」
眠そうな顔をパッと明るくさせ、亜希はルームミラーから俺を覗く。
「帰ったら十時くらいだけど……おばさん心配すんじゃない?」
「ううん、大丈夫。お母さん、お父さんのとこ行ってて明日帰ってくるから」
亜希の親父さんは仕事で仙台に出張していると聞いている。
亜希の両親は仲が良く、おばさんは月に何度か親父さんのところに行っているらしい。
「お子ちゃまは早く帰って寝たほうがいいんじゃねぇの?」
出た……良平の余計な一言。
亜希と一緒にいたいくせに、どうも口は素直になれないようだ。
良平は本当に不器用だと思う。
「うるさい! もう良ちゃんは余計なこと言いすぎなの!」
「怒んなよ。カルシウム足りねーんじゃね?」
「誰のせいよ? あっ、そうだ。良ちゃんにも見せてあげる」
亜希は話題を変えるように手を助手席に伸ばした。
「何? あぁ、今日やってきた爪?」
「そう。ほら、ここにちゅうもーく!」
「数字? 4、2、7?」
今日の日付を入れたネイルアート。
今日という日が亜希にとって大事な日になっていると、俺は勝手に思った。
亜希と初めて会った日。
それは、俺にとっても特別な日になった。
「何か…縁起わりぃな、その数字。4、2、7で『しにな』みたいな?」
……は?
良平の余計すぎる一言に俺は一瞬固まった。