「びっくりしちゃいました」


「……何が?」


「さっきの、前田先輩のことです」


二人きりになったテーブルで、尋乃は突然秀の名前を口にした。



場が悪くなったのか、秀は「また後でな」とか言って、俺をこの場に置いていった。


それからすぐ、尋乃の友達も席を立った。


『邪魔者は消えます』みたいな顔で。



結局、二人きりのオチってやつ。


賑わってた学食も、来たときよりずっと人が減っていた。


空いた隣のテーブルを、エプロンをした学食のおばちゃんが拭き始める。



「秀の、何にびっくりした?」


「え……あ、前田先輩って、彼女いたんだって」


「……? 何で尋乃がそこに驚くわけ?」


そう訊くと、尋乃は急に押し黙った。


「おーい?」


「あ、驚いたっていうか、何ていうか……良平先輩は知ってたんですか?」


「え、知らねぇよ。でも、アイツいつもそうだからさ」


と、どうでもいいような態度で言ってみる。



実際、俺にとっては秀の女のことなんてどうでもいい。



いたとしても……どうせ本気じゃない。



「いつも……ですか?」


「あぁ。アイツは付き合ってる女がいるとか、俺らに言ってこないからさ」



秘密主義っていうか、何ていうか……。



「でも、俺も亜希も、訊かなくても何となくわかるっていうか……まぁ、本気じゃないんだろ? なんて思ってるし。俺はね」


「好きじゃない……ってことですか?」



秀が亜希を好きなことはわかってる。


だから、他の女と本気で付き合ってるなんて俺には思えない。