「……?」


「新しい彼氏の誕生日とかでしょ?」


「えっ?!」


いきなりそんなことを言われてドキッ。


そう言われ、別れた須田先輩のことを思い出した。


志乃さんには過去何度か須田先輩のことを話したことがある。


付き合ってる人がいる。

その人と別れた。


そんな話をしていた。



「違いますよ。彼氏、今いないし」


「え、じゃあ何?」


「今日、友達との記念の日なんですよ。だから、ちょっと変わったことしてみよっかな? って思って」


隠すことなくさらりと答える。


すると志乃さんは「あ、例の男の子たち?」と、すぐにわかったみたいにそう言った。


もちろん二人のことは須田先輩以上に話してる。


「ああー……なるほどね」


うんうんと数回頷き、志乃さんはにこりと笑う。


それから薄いピンク色でその文字のアートをし始めた。


自分のデザイン画以上の仕上がりになっていく爪。


デザインを任せれば必ず気に入る物になるし、今日みたいに注文をつけても、いつも想像以上の仕上がりになる。


ネイルを頼むのは絶対に志乃さんしかいないってわたしは思っている。



「でもいいね、そんな友達がいるなんて」


「え……まぁ、腐れ縁ってやつですよ」


「腐れ縁か。それがいいんだよ」


「そうですか?」


「あんまりいないもんだよ、今どきさ。うらやましいもんだよ」


志乃さん言われて、そうなのか……。なんて思う。



確かに、二人と出逢ってなかったら、今の自分は何をしてただろう?


二人がいない世界なんて、今のわたしには考えられない。



「あ、じゃあ今から約束してるの?」


「はい、一応」


「じゃあ、ちょっとピッチ上げなきゃね」



志乃さんはそう言って筆を拭くと、ピンセットに持ちかえてストーンを選び始めた。