お母さんがいなくなって、部屋の中が静かになった。


スマートフォンを持ったまま布団にもぐる。



秀くんから電話……か。


あっ……

思い出しちゃった……。



あの日……亜希は、秀くんに……。



急に恥ずかしくなって、亜希は枕に顔を隠した。



やだやだっ!

どうしよう……。


あれって……


キス……っていうこと、だったんだよね?



それって特別なことだって、亜希は知ってる。



どうして?


どうして、秀くんは亜希にキスなんかしたの?



あのとき、びっくりして動けなかった。


秀くんの目を見てたら、魔法をかけられたみたいになった。


何か……不思議だった。



キスされたとき、身体の力が抜けて変な気分になった。


身体が、宙に浮かびそうだった。



でも、嫌じゃなかった……。


全然……嫌じゃなかった。



そのとき、


「思い出すの待ってる」


って秀くんは言った。



それは、どういうこと?



あの子が言ってた。


大学で会った女の子。


亜希は、泥棒だって言った子。



亜希は……


秀くんのことが好きだったって……。



忘れちゃったの? って、そう言ってた。



亜希は……秀くんのこと……


好きだったの?


それを、亜希はやっぱり忘れちゃってるの?


秀くんは、そのことを待ってるって言ったの?



だから……あんなことしたの?