「……え?」


「亜希じゃ……ないよ」



そう言って顔を上げた亜希は、雨まみれの顔で引きつった作り笑いを浮かべていた。



「……良平くんが追い掛けるのは、亜希じゃないよ?」



それって……


尋乃のこと、言ってるわけ?



亜希が言われた内容を、俺は詳しく知らない。


でも、それは違うって、誤解だって、きっと今言わなくちゃいけない。



「違うんだよ……」



何をどう言われたか知らないけど、それは全部間違いで、尋乃とはもう何でもなくて、だから、気にしなくてもいい。



俺が大事なのは、亜希だけ。


他の……誰でもない。



そこまででき上がった言葉は、亜希の消えてく作り笑いを目の当たりにし、出口でウロウロと彷徨う。


躊躇してる場合じゃない。


頭ではわかっていた。



「亜希はね……良平くんが好きだよ?」



弱まらない雨に目を細め、亜希は消えそうな声でそう言った。


その顔がひどく悲しそうで、ギュッと強く胸を締め付ける。



「でもね……放して?」



俺が再び掴んだ手を、亜希はさっきより弱々しい力で放したがった。


手に余る細い手首が、俺の手の中から逃げようとする。


言葉と気持ちが裏腹で、本当はそんなこと思ってないように俺には感じ取れた。



「ごめん……放せない」



放したら駄目だ。


俺は直感的にそう思った。