「は……?」
「わたしに……良平先輩返してくださいって、言いました」
完全に嫌われた。
自分で言っておいて、私はその一言でどん底に落ちた。
「何で……そんなこと」
そう言った良平先輩は、今にも駆け出していきそうになった。
わたしに怒ったり何かを訊くことより、亜希先輩を追い掛けていくのが最優先。
わたしには…
怒る価値もないの……?
「だって! そうじゃないですか?!」
駆け出した背中を引き止めるようにそう言っていた。
血相を変えた良平先輩が振り返る。
こっちを向いた顔は、もう完全に怒った顔になっていた。
「アイツは……記憶が無いんだよ。知っててそんなこと言ったのかよ?!」
「そんなの……わたしには関係ないです」
頭が熱く重くなってきて、鼻と目の間がつんと痛くなる。
視界が歪んで、良平先輩がどんな顔をしてこっちを見てるかもわからなくなった。
「最低だな……」
その一言と共に、わたしの手にあるスマホが引ったくられた。
溜まる場所を失った涙が、限界を越えて一気に溢れ出していた。
「どうして追い掛けるんですかっ?!」
涙ではっきりしない視界に目を凝らし、私は精一杯の声を上げていた。
もう引き留められない。
そう思いながらも、そう言うことしかできなかった。
「どうして? そんなの……アイツが好きだからに決まってんじゃん」
そんな捨て台詞を残して、良平先輩は走っていった。