画面に表示されたのは、良平先輩の名前。


震え続けるスマホを私は手に取った。



『亜希? 終わったよ。もうすぐ行けるから』



耳に入る、懐かしい良平先輩の声。


でも、好きだったその声が呼び掛ける相手はわたしじゃない。



『あれっ、もしもし?』


「亜希先輩なら、スマホ置いたまま帰っちゃいましたよ?」


『尋乃……何で』



良平先輩がわたしの名前を口にしたとき、二人の距離は顔が確認できるくらい近付いていた。


通話を切って、良平先輩に目を向ける。


疑問だらけっていう顔をしながら足早に近付いてくる先輩。



わたしは何も考えられなくなっていた。



「……やっぱり、良平先輩だったんですね。だと思ってました」



わたしを見る良平先輩の顔は真顔で、どこか冷たく見える。


いつ怒り出してもおかしくないその表情に、今すぐ目をそらしたくなった。



「亜希は?」


「……さぁ?」


「いや、さぁ? じゃなくて」


「ショック受けちゃったんじゃないですか?」


「ショック……?」


「……泥棒だって、言ったから」