あの事故から半年。


確かに、亜希の回復は目まぐるしく感じられる。


今は普通の生活が送れるまでになった。



でも、亜希は今も失くした記憶を探っている。



「先生……亜希の記憶って……戻るんですかね?」



状態を説明された日、記憶が戻るかはわからないと言われた。


でも、またそんな質問をしてしまう。



俺の中で納得できない部分は日毎に増すばかりだった。



「それは……前に話したわよね?」


「わかってます。でも、今の亜希を見てると……全て思い出すんじゃないかって……そう思うんです」


「全て……か」


先生は寒空を仰ぐ。


気が抜けるように笑うと、白い息が空中を舞った。


「私も、思ってるわ。早くそうなってほしいとも……思ってる」



強く思うことも、願うこともできる。


でも、それを叶える治療法なんて無い。



「すいません……」


「え、どうして謝るの?」


「いや、何か……先生を責めてるみたいで」



自分の感情のままに先生に詰め寄った気がして申し訳なくなった。


俺の言葉に、先生はどこか切なそうな微笑を浮かべていた。



「そんなことないわ……私も、この仕事に就いてから何度目かしらね? こんな気持ちになるのは……」



先生はそう言い、ふうっとまた白い息を吐き出した。