約束が入ってる。
そんなの真っ赤な嘘だった。
スマホをパンツのポケットから取り出し、リダイアルから亜希の番号を見付ける。
呼び出し音が三回鳴ると、
『はいはーい、もしもし』
と、聞き慣れた亜希の声が耳に入ってきた。
「……俺だけど」
『うん、わかるよ。何、どうしたの?』
「何?」と訊かれ、言葉に詰まる。
そこでやっと、何を言いたいかもわからないまま電話をかけた自分に気付いた。
『おーい、良ちゃん?』
「……あ、ごめん」
『はぁー? どうした?』
亜希の声を聞くと余計に何も言えなくなる。
いつもの調子で話せばいいものの、それらしい言葉が一つも浮かばない。
『ねぇ、イタ電?』
ふざけて笑う亜希の声が耳を刺す。
上手く出てこない言葉につい頭がカッとなった。
「あ? イタ電なわけねぇだろ。何言おうとしたか忘れただけだし」
真面目に電話しただけあって思わず強い口調で言い返す俺。
『やばいよ、それ。若年性アルツハイマーってやつじゃない?』
でも、亜希はいつも口では負けない。
軽くからかうと、また電話口でケタケタと笑った。
「あー! もういいよ。じゃあな」
俺はそう言い、一方的に電話を切っていた。
言いたいこともはっきり言えない自分にイライラするしかできなかった。