「……先輩?」


「あっ、ごめん」


尋乃の声にハッとして顔を上げる。


「いや、初めて聞いたんだけど、その話」


努めて平然を装い、俺はヘラっと笑ってみせた。


心臓が変な動きをして騒ぎ立てる。


「え、うそっ……もしかして、良平先輩に隠してたのかな」


「いや、アイツ肝心なこと言わないし、物忘れ激しいから」


と、気まずそうな尋乃を気遣い変なフォローをしてみる。


自分でも何を言ってるのかよくわからなかった。



亜希が……


付き合ってた男が……いる?



「あっ、先輩、お茶でもしてきませんか?」


微妙な空気が流れる中、ちょうど学校の門に差し掛かるところまできていた。


話題を変えるように尋乃が言う。


でも、俺には考える余地もなかった。



「ごめん、これから約束入ってんだ。男とだけど」


気付けば口から勝手に断りが出ていた。


とてもじゃないけどそんな気分になれない。


そう言われた尋乃は一瞬表情を曇らせる。


けど、すぐににこっと笑みを浮かべてみせた。



「そうですか……残念」


「ごめんな、せっかく誘ってくれたのに。今度行こう。気をつけて帰れよ」



それだけを言い、俺は尋乃に背を向けた。