今更かもしれない。
余裕をかましてた。
こうなることを予想も、考えもしなかった。
でも、こうなった。
素直に思った、亜希の気持ち。
このまま亜希が何も思い出さなかったら、きっと俺に対する想いのすべてに気付くことは無い。
そんなことを思うと、何が何だかわからなくなりそうだった。
「……前田先輩?」
顔を上げると、そこにはにっこりしながらこっちを見てる例の彼女。
良平の彼女が立っていた。
色々考えすぎてて、ぼうっと顔を見てしまう。
「……どうかしましたか?」
例の彼女はそう言うと、隣に来て膝を曲げてしゃがみ込んだ。
「いや、別に……」
俺は努めて平然を装い、ノートを教科書に紛れ込ませる。
今、誰かと話す気分じゃなかった。
涼しい秋の風が音無く吹いてくる。
衣替えした学生たちが和気あいあいと歩いてくのを、俺は煙草をふかしながら黙って眺めていた。