「理由……聞かせて下さいよ? いきなりそんなこと言われても、わからないじゃないですか……」



風が吹いて、街路樹の老いた葉がひらひらと舞い落ちてくる。


アスファルトに着地していく乾いた茶色い物体を、俺は黙ったまま目で追い掛けていた。



「……亜希先輩、ですか?」



尋乃は消えそうな声でそう言った。


突如出された亜希の名前に息苦しくなる。



「聞きました……亜希先輩……あの事故で記憶無いって」



……どこで、そんな話?



やっぱり、そんな噂は広がってた。


その噂話は、どうやら尋乃の耳にも入っていたようだ。


亜希のことなんて一言も口に出さなかったのに、今、どうしてそんなことを言うんだ?



せっかく……


平和に終わらせようとしてるのに……。





「……一緒にいてやりたいんだ」



亜希が好きだし、大切だ。


本音はそうだった。


振り返って見た尋乃は、弱くも頑なな面持ちをしていた。



「だからって! どうして別れるなんて言うんですか? それが理由ですか?!」



今まで溜め込んできた亜希への不満が、爆発寸前まできてるみたいに尋乃は叫んだ。