振り返ると、そこに立っていたのは尋乃(ヒロノ)だった。


『先輩』なんて呼ぶのは、高校のときの一級後輩にあたるから。


浪人した俺は、一級下でもストレートで大学進学した尋乃と同じ大学一年生ってことになる。


背後を気にしながら何となく写真を封に戻す。


「よぉ……おはよ」


尋乃は空いている隣の席に来ると、膝丈のスカートを整えて腰を下ろした。


「何見てたんですか? 写真?」


座ったと同時に尋乃は俺の手元を覗き込んだ。


「あぁ、コレ?」


中身が写真だってすでにバレてるらしい。


隠すつもりもなかったその写真を再び取り出し、しぶしぶ尋乃に手渡した。


「え、これって……先輩たちの卒業式の?」

「何で今頃ってかんじ?」


不思議そうな顔で写真に見入る尋乃。


ヘラっと笑ってそう言ってみると、尋乃は「うん」と頷いた。


「さっき亜希からもらったんだ。相変わらずうっかりしてるよ、アイツ。一年も前じゃん? この写真」


一年も前の写真を今になって渡してくるなんて、しっかりしてんだか、うっかりしてんだか……。


そんな亜希を思い、俺はついつい笑っていた。


「何か…懐かしいですね。でも、やっぱり良平先輩の制服姿……かっこいい」

「えっ?」

「わたしの友達は、前田先輩がかっこいいって言ってた子もいたけど……」

「……?」

「わたしは……良平先輩だな」


恥ずかしいのか、一切目を合わせない尋乃。


微妙に赤らんだ頬に気付き、俺は間が持たなくなって視線を泳がせた。



尋乃と俺は、二ヵ月くらい前から『彼氏彼女』っていわれる付き合いをしてる。



でも、俺的に気の進む話じゃなかった。



それは、二ヵ月前のこと――。