「好きだったんですよ、亜希……あなたのこと」


重くなった空気を軽くしようと、俺は努めて爽やかにそう言っていた。


俺のそんな言葉に、志乃さんは二重の目をぱちぱちとさせて俺を見る。



志乃さんが気まずい思いをすることなんてない。



俺はそんな思いを込めてニコッと笑ってみせた。



「何にも思い出さないかもしれないって思ってたし。ちょっと……希望見えたっていうか」



亜希が志乃さんのことを思い出したのか、忘れていなかったか、それはいまだに不明だ。


でもそれを聞いて、一筋の光が見えたような気がした。


これから、亜希は今までのことを少しずつでも思い出すかもしれない。



俺にはそんな希望に思えた。