急に出された言葉に、秀も俺も返事ができなかった。
亜希が志乃さんを憶えていた感動で、おばさんは事の成り行きを話したのだろう。
その場の空気が一気に重たく感じる。
「でも、こうやって元気で三人いるんだから……よかった」
元気で、三人いる……か。
自分の知り合いとか近い人間が事故に遭ったなんて聞かされたら、俺もきっと同じようなことを言うと思う。
掛ける言葉を選ぶと思うし、何て言ったらいいのか難しい。
人の不幸は知らないでいるほうがいいのかもしれない。
「君たちのこと……亜希ちゃんは?」
志乃さんのその言葉が記憶のことを言っているのはすぐにわかった。
何もわからなかった亜希が唯一、教えられもせずに把握した存在。
それが目の前にいる、この人……。
彼女の問いに秀が横に首を振る。
それを見て志乃さんは「そっか」とだけ反応した。
「あなたのこと……亜希、憶えてたみたいで」
「……そう、みたいだね。でも、どうして私なんかのこと」
秀の問いに、志乃さんは恐縮した様子を見せてそう言った。
家族のことも、いつも一緒にいた俺らのことも、何も憶えていなかった亜希。
それなのに、たまにしか会わない自分を憶えていたなんて、彼女は気まずいと思うしかないのかもしれない。