女は保証人に私の父親が、なっていると言う。多分そんなのはデタラメだろう。あの人が、この女の為に保証人になる訳がない。もし、なっていたとしても私には関係無い。
「あの人、自分の財産全てあんたに譲るって遺言書に書いてるのよ?まぁ、離婚成立してる私は今更とやかく言わないけどさ?」
嘘だ!
この女が何も要らないなんて言うわけない。
きっと何か企んでいる筈。
「あんたが財産を受け取るとなると、借金も受け取る事になるんだよね!借金も所謂財産だからね」
「私はあの人の財産を何一つ受け取るつもりはありません!だから借金の事も私には関係ないです!」
「じぁ、良いんだ?あの家が無くなっても?あんたが受け取らないとあの家無くなっちゃうわよ?あの家あんたのお母さんの思い出が詰まってるんじゃ無いの?」
私に母との思い出は無い。
私が生まれて直ぐ母は死んだ。だから、写真でしか母の顔を知らない。勿論、母に抱かれた記憶もない。
幼稚園に入ると友達を迎えに来るお母さん達を、私は部屋の隅で見ていた。
友達は『ママー』っと迎えに来たお母さんに抱きつき、そんな子供を優しく抱きしめる母親。『今日もお利口にしていた?』『うん!お利口にしていたよ!』『そう、いい子ね?さぁお家へ帰りましょう』
そんな姿が羨ましく、寂しかった。
だから、あの家にも私の胸の中にも母との思い出は無い。
「家など、どうなっても構わない!だから帰って!」
「分かったわよ!じゃこれだけ頂いていくわ?」
女は私の作ったアクセサリーを、一緒に置いてあったケースに入れて、全てを持って行こうとした。
「待って!それを持って行かないで!」
「離しな!また作ればいいでしょ!?」
「ダメ!離して!!これはダメ!ダメなの!!」
玄関でケースを奪い合っていたその時、玄関のドアが開き隼翔が現れた。

