立花さんは俯いた。


「結香ちゃんが高校生って分かったとき、


ちゃんと言うべきだった。」


「…立花さん、」


立花さんはこっちを見た。


「忘れた方がいい、ですよね。


もともとはお互い数合わせだったわけですし。」


私から提案した。


忘れようと思った。


春休みの間立花さんのことを好きだったことを。


「…残念だけどね。」


「はい。」


苦しかった。でも私は笑った。


もともと恋なんてしたくなかったんだから。


これで元通りだから。


「…座ろうか。」


立っていたことすら忘れていた。


デスクの横に並んでいた椅子に座った。


「立花さん、先生してるときはちょっと怖いんですね。」


「そうかなぁ。」


「口調が固い、というか。」


「それはあるかもね。なめられちゃ困る。」


そう言って立花さんは笑った。


「…私、何も立花さんに返せてないです。


ごめんなさい。」


不思議そうな顔をして立花さんはこちらを見た。


「春休み…楽しかったです。


メール貰ったら嬉しかったし。…デートも。


あまり恋とかわからない、って言ったけど、


立花さんに会えて良かったって思ってます。」


忘れられるだろうか……?


私はそんなことを思った。