それから、どれくらい経ったのだろうか。



腕には点滴が繋がれていて、口元には酸素マスクがあった。



白い天井に、淡いピンクのカーテンに囲まれていた。



点滴をいじる先生。



私の意識が戻ったことを確認した奥本先生は、ナースコールを押して何かを言っていた。




だけど、完全に覚醒していない頭だから、何を言っているのか分からない。



でも、これだけははっきりと聞こえた。




「沙彩、先生の言葉が分かったら、手を握って。」





私は、それに応え、先生の手を握り返す。




「よかった、もう大丈夫。」




どうして。




どうして、私をここに連れてきたの?




何で、病院なの?



そう考えると、涙が次から次へと溢れ出していた。




「沙彩?どうした?」




「何で…病院なの…?」




「え?」



「私…また…」




「沙彩、病院へ連れてきた理由は肺炎の疑いがあったから。詳しい検査をして、肺炎ってことが分かった。だから、しばらくは入院してもらう。」





「入院…?」




「大丈夫。沙彩がちゃんと治療してしっかり休めば、すぐに退院出来る。だから、それまで頑張ろうな。」




「…。」



また、1人になるのか。


『入院』


それは孤独で、真っ暗な世界に迷い込んだように不安に感じる。



苦しくても、何かあっても私は怖くて、ナースコールを押せなかった。



このボタンを押したら、先生に迷惑をかけそうで。




中々押すことが出来なかった。



「沙彩、君はもう1人じゃないだろ。君には、私がついている。それに、私だけじゃない。沙彩を支えている人は、たくさんいる。だから、前を向いて、治療に取り組もう。」



私の思っていることを悟ったかのように、奥本先生はそう口にしていた。



『1人じゃない。』


そう言われても、ずっと1人で生きてきた私は、そんな言葉をすんなり信用することなんてできなかった。



こうして優しくしてくれているのは一時で、きっといつかは見捨てられる。



それなら、最初から優しくなんてしてほしくない。


私は、そう感じた。