あたしは、違うのに。
あの時のこと、思い出すだけで胸がぎゅうって苦しくなる。
本当は、すっごくすっごく嬉しかった。
琥侑があたしにキスしようとするなんて、あたしの中でありえない出来事だもん。
だって、相手はあの琥侑。
口は悪いけど、誰よりも格好良い。
凡人のアタシには到底つり合いの取れない人物。
……拒否った自分が悪いけど。
けど、あたしは過ぎたことなんて思えないよ。
――コンコンッ
「ヒメ?」
トイレをノックする音で、あたしはハッとする。
こ、琥侑……っ!?
「なっなに!?」
急に琥侑がノックしてきたことに驚いて、あたしはとっさに正面の鏡を見た。
……まだ、ブラウスしか着替えてない。
「……着替え、まだ?そろそろ店開けるぞ」


