どういうこと、と口を開いた瞬間、びゅおっと一際強い風が吹き荒れた。
夜風は強く冷たい。露店を出している人たちが慌てて物を押さえたり、テントを引っ張ったりし始め、道行く人も体を縮こまらせる。
「わ・・・」
私も当然風に煽られる。あ、と思った時にはもう遅くて、ふわりとフードが外れた。
「―――おいっ!何やってんだ!」
ヘリオトロープがフードごと私の頭を抑え込む。
「ちゃんと押さえとけ、よ・・・」
私を睨みつけて怒鳴っていたヘリオトロープの言葉が途切れる。
目線を辿って左耳の辺りに触れると、柔らかな感触がした。兄様に貰った花だ。
「この花がどうかしたの」
「いや・・・この花、どこで」
「兄様に貰った。Boostで咲かせてもらって」
そう言えば、ひとりになった時に見てくれ、と言われていた。きょろきょろと軽く見回すと樽に水が張ってあるのを見つけた。
それを鏡代わりにして見て、目を見張る。
水面に揺らいで映ったのは、紫の小さな花だった。
もう一度、その花に触れる。
「うそ、これ、本当に私の好きな花だ」
「好きな花・・・名前は、知らないのか」
いつの間にか後ろにいたヘリオトロープから声がかかって頷く。
フードを捲るわけにもいかず一緒に樽を覗き込んでいるので距離が近い。
少しの緊張と圧迫感を感じながら、私は呟く。
「宮廷庭師のきみと違って、私はそんなに詳しくない・・・ん」
私は不意に鼻をくすぐった香りに振り返った。


