「ありがとう!」
明るい街の気配を背に、笑う。
追いついたヘリオトロープの横をまた歩き始めると、彼が目を瞬かせながら呟いた。
「・・・お前、笑えるんだな」
「あたりまえでしょ。私だって人間なんだよ?」
「・・・」
頬を膨らませてみせるとふいっと顔を背けられた。
その反応にむくれながら、きょろきょろと辺りを見回す。
「おーいそこのお嬢さんと旦那、上手いよー、食ってかないかい?」
大きな声に顔を向けた。
恐らく酒を飲んだのだろう、中年のおじさんが赤ら顔でにこにこと笑っている。
「ね、ヘリオトロープ、あれ何?」
私は声をかけられたことにどきどきしながら小声でヘリオトロープに耳打ちした。
おじさんが小さなテントのようなものの中に座っていて、その前の机の上に色々なものが広げられている。
顔を強ばらせる私にヘリオトロープは呆れたような視線を向けた。
「お姫様はあれも知らないのか」
「・・・お姫様っていうか、私がかな」
きっと、兄様も父様も、それから・・・母様も、知っているのだろう。
知らないのは、ずっと城に閉じ込められて過ごしてきた、私だけだ。
顔を曇らせたのがわかったのか、ヘリオトロープが面倒臭そうに軽く舌打ちした。
それから不意に声のした方に歩き始める。
「な、ちょっと」
慌ててついていくと、ヘリオトロープが見たこもない、想像もできないような爽やかな笑みを浮かべておじさんに話しかけていた。


