「え、なんで、これ・・・」
外套をヘリオトロープの方に掲げると凄い目で睨まれた。
「いいから、着ろ」
「はい」
俺だってやりたくてやってる訳じゃない、と副音声が聞こえた気がして、私はとりあえず腕を通した。
フードを被って一息ついたところで、ん、とヘリオトロープが片手を伸ばしてきた。
何だ、と首をかしげて、座ったままだったことに気がつく。
意外と気が利くのか。その手を取ろうと腕を伸ばす。
「あ、ありが・・・と?」
が、その手はするりと通り過ぎられ。
腕を掴まれ引っ張られてぽすんと収まったのは、彼の腕の中。
なされるがままになった私はきょとんとしてヘリオトロープの紫の瞳を見上げた。
しばらくしてから、我に返って口を尖らせながら掴まれた手首を擦る。・・・あれ・・・全然、痛くない。
「何馬鹿な勘違いしてるんだ。手を貸して立たせてやるとでも?生憎俺は無条件に優しさを振り撒く趣味は無い」
暗闇で光る彼の瞳に至近距離で見つめられ、息を詰める。
・・・言ってることと、やってることが、違うけれど、多分本人は気がついてないんだろう、な・・・
ヘリオトロープは何も喋れない私につまらなそうにふんと鼻を鳴らすと、私を抱えたまま窓に向かって歩き出した。
「・・・行くぞ、喋るなよ、舌噛むぞ」
「え、ちょ、なに、どこにいくの」
淡々と話すヘリオトロープは、私に訊かれると驚いたように立ち止まった。


