リーンに促されて、部屋をあとにする。

後ろで無情にもぱたん、と扉の閉まる音が広い廊下に虚しく響く。

たとえ、薄暗くても。
急にあつらえたように調度品だけが置かれた、皇女が住むような部屋でないとしても。

私の、この城での数少ない居場所だというのに。


廊下の大理石を叩く自分の足音を耳に入れて、その音が均等なリズムを刻むようにすることだけを意識する。

気を抜けば、足が止まってしまいそうだったから。

普段は人目のつかないように、使われていなかった誰も寄ってこない小汚くこじんまりとした塔の最上階に私を押し込めて。

そのくせ、他種族と出会う機会のある会談には、目一杯着飾らせて、こうして引っ張り出すときた。

初めてのことだから推測でしかないが、おそらくはそろそろ本当に、私は邪魔なのだろう。早く他国に、送り出したいのだ。


でも、何処にも、行きたくない。

どうせ、皆私なんか要らない。王家の恥さらしと詰られるだけの、ただのお荷物だ。どこへ行ったって同じだ。




―――“口がきけない”姫なんて、何を考えているのかわからない、ただの気味の悪い姫に違いないのだから。