「・・・じゃあ、アムリィ・・・また、ね。」
結局1度もこちらを見ることなく、兄様はくるりと背を向けて歩いて行った。
声が、震えていた。その震えが何から来るものなのか、私には分かりかねるけれど。
泣いていたんじゃないかな、と思った。
悪意を含んでいない、そんな、声だった。
遠ざかっていく、陽に煌めく白髪を、記憶に残っているよりもずっと大きな背中を、目に焼き付ける。
次見られるのはいつになるか分からないから。
ねえ、兄様。
こんな兄不幸な妹だけれど、願わせてください。
未来に、行く路に、どうか幸多からんことを。
「兄様・・・」
*
無機質な冷たさが、額にひんやりと心地好い。
私は部屋の鉄柵に額を押し当て、外界を眺めていた。
昼間と異なりじわりと滲むように目を灼く橙が、何故かいつもよりずっと澄んで見えた。
ああ・・・この柵、邪魔だなあ。
私と外界とを隔てる鉄の蔦に、指を這わす。
これとももう、お別れかな。
「長い付き合いだったね、きみとは」
こつ、と拳を当てると鈍い痛みが広がった。
夕刻を数える鐘の音を聞きながら、呟く。
もう下からじわじわと、黒闇が迫ってきている。
あいつがいつ来るのかわからないけれど―――タイムリミットは、あと少し。
「次は、何処に閉じ込められるんだろう。柵はない所がいいな・・・あ、でも、あった方がいいのかな」


