黄金の唄姫と守護騎士はセカイに愛を謳う


「・・・じゃあ、アムリィ・・・また、ね。」

結局1度もこちらを見ることなく、兄様はくるりと背を向けて歩いて行った。

声が、震えていた。その震えが何から来るものなのか、私には分かりかねるけれど。

泣いていたんじゃないかな、と思った。

悪意を含んでいない、そんな、声だった。


遠ざかっていく、陽に煌めく白髪を、記憶に残っているよりもずっと大きな背中を、目に焼き付ける。

次見られるのはいつになるか分からないから。


ねえ、兄様。

こんな兄不幸な妹だけれど、願わせてください。

未来に、行く路に、どうか幸多からんことを。

「兄様・・・」



無機質な冷たさが、額にひんやりと心地好い。

私は部屋の鉄柵に額を押し当て、外界を眺めていた。

昼間と異なりじわりと滲むように目を灼く橙が、何故かいつもよりずっと澄んで見えた。

ああ・・・この柵、邪魔だなあ。

私と外界とを隔てる鉄の蔦に、指を這わす。

これとももう、お別れかな。

「長い付き合いだったね、きみとは」

こつ、と拳を当てると鈍い痛みが広がった。

夕刻を数える鐘の音を聞きながら、呟く。

もう下からじわじわと、黒闇が迫ってきている。

あいつがいつ来るのかわからないけれど―――タイムリミットは、あと少し。

「次は、何処に閉じ込められるんだろう。柵はない所がいいな・・・あ、でも、あった方がいいのかな」