「えーっと、いや、アムリィもあそこには居たくなかったでしょ?」
こくり、と頷く。本来ならもう少し式は続く予定で、あまり居心地の良いものではない。
ところが、なぜか聞いた本人は頷かれたことにうろたえた。
「あ、いや、えっと・・・まあ、それは言い訳って言うか・・・」
兄様が言い淀むなんて珍しい。彼は黙り込んで、こつこつ、と数歩私に背を向けて歩いた後、くるりと勢い良く振り返った。
「僕の、小さな1歩なんだ」
そう言って、苦笑する。
「今までずっとね、僕は父上の、国の・・・言いなりだったんだよ」
ちらりと視線を向けられて慌てて頷く。それを見て笑うと、兄様は話を続けた。
「でも、それじゃ駄目なんだって、わかったんだ。この間のアムリィの結婚騒動のとき、やっと自覚したよ。僕は、自分の妹1人すら守れない。そんなことで・・・この国の、僕の民を、守れるはずがないんだ」
その言葉にはっとして顔を見ると、兄様はもう笑っていなかった。
「だからこれは、ささやかな反抗のつもり。まだこんな小さなことしかできないけれど、いつか父上にちゃんと自分の意見が言えるように。そして・・・妹が何処に行ったとしても守れるように」
凛とした声で。
「僕は―――セルティカ王国の、“王”になるよ」
射し込む太陽を背にそう微笑んだ兄様は、紛れもなく“王”の風格を漂わせていた。


