私は不覚にも固まってしまった。
・・・こんなの、儀式にあったっけ。
すぐ近くにあった熱が離れて、兄様の声が響く。
「アムネシアスムリィに、祝福の拍手を!」
その声とほとんど同時に押し寄せる熱気と歓声。一時的にとは言え抑え込まれていたそれは、ほとんど爆発的と言って良いほどに思えた。
声を出してもいいものかと迷っていたのだろう。
下から時折悲鳴も聞こえるようになってきた。どこぞの阿呆が馬鹿騒ぎをしているに違いないが、兄様はおろか、眺めているだけで誰も止めようとしない。
煩いな、とそう思った瞬間、ばっと腕を掴まれた。
「!?」
まさか、こんなときに。あいつか?
そう思ったけれど、ちろりとヴェールを捲って見えたのは悪戯っぽい笑みを浮かべた兄様だった。
彼はしー、と言いながら人差し指を口元に当て、私の手を掴んだまま走り出す。
風に煽られて外れたそれを、私は右手に抱えた。
走りながら、駆け落ちでもしたみたい、などと見当外れなことを考えていると、この辺りで良いかな、と兄様が立ち止まった。
2人とも胸に手を当て呼吸を整える。
はぁーっと大きく息をついたかと思うと、ぶっ、と兄様が噴き出した。
「ははは、抜け出してやったよ、アムリィ!」
心底楽しそうに笑っている兄様に思わず目を瞬かせる。
顔を凍らせた私に気がついたようで、兄様は照れたように頭に手をやった。


