黄金の唄姫と守護騎士はセカイに愛を謳う


はは、と笑う兄様の言葉に、私は大きく頷く。

きっと、兄様は今だっていつもと変わらず、優しく微笑んでいるのだろう。

ヴェールがあって良かったと思った。

今どんな顔をしているのか、自分でもわかったものじゃない、から。


ぶわっとドレスとヴェールが風に煽られ、慌てて押さえる。

なにか遮っていた壁が取り払われたように歓声も急にクリアになった。

「それでは、アムネシアスムリィ・ラ・セルティカ姫の、成人の儀を」

その言葉に私は跪く。

両手を握り締め胸元に寄せる姿勢は、さながら聖母のようだと、我ながら場違いな感想にこっそり笑った。

成人の儀は王位に就いている者か王位継承権を持つ者が行うしきたりになっている。オルカイトルムネがやるはずがないから、きっと兄様だろう。

「―――アムネシアスムリィ・ラ・セルティカ。唄声に溢れ、光に祝福された、人間の国セルティカ王国を統べし者よ。この国に更なる栄光を期待し、賢台の成人を祝す」

予想通りに兄様の声が響くと、朗々としたその声にざわついていた人々はいつの間にか聞き入り、バルコニーにしぃんと静寂が広がった。

こつ、こつ、と歩み寄る兄様の足音がやけに大きく聞こえる。

目の前で黒い靴が立ち止まると、ちゃり、と頭の上で金属音がした。

王家の聖剣と呼ばれる、儀式用の剣だろう。勇猛なヒューマンの騎士がセルティカ家の家紋として彫り込まれているもので、兄様の時、遠くから見たことがある。

それをかざしたまま兄様が腰を曲げた気配がして、ヴェール越しに柔らかいものがそっと額に押し当てられた。