私がぼーっと立っている間に、リーンは慣れた手つきでテキパキと私の身支度を済ませ、最後に私の頭にティアラを載せて位置を調節した。

「今日は大事な会談ですからね。姫様のお顔を他国に知らしめなければなりません。」

彼女の声をどこか遠く聞きながら、私は目を伏せる。

・・・そうか、今日だったのか。近々あるとは聞いていたけれど・・・時の過ぎ去る感覚が、本当にない。


そんな私の様子を見てどう思ったのか、優しげな口調でリーンが言う。

「大丈夫ですよ、姫様はこの王国一、いえ、大陸一の美貌をお持ちですから。すぐに見初めて頂けますよ」

私の白髪を梳りながら彼女は微笑んできたが、その言葉に「早く他国に嫁いでくれ」と、そういう意図がはっきりと透けて見えて、私はこっそり顔をこわばらせた。

きっと、彼女にはわからなかっただろうが。


「では、出発致しましょう。姫様。・・・アムネシアスムリィ様。」


ああ、その名前で私を呼ばないで。


セルティカ王国、第一皇女、
アムネシアスムリィ・ラ・セルティカ―――

それが、私の、名だ。

無意味だと思えるほどに長いこの名前も。王族を表すこの苗字も。大っ嫌いだ。


ぎゅっ、と耳を覆いたくなる。