「だ、大丈夫かい、アムリィ・・・!」
驚いたように駆け寄ってくる兄様の手を避けるようにして首を激しく振る。
なんでもない。
・・・なんでも、ないから。
胸元を軽く握って呼吸を整える。
でも、本当に、驚いた。まさか、あいつが。
ぱさりと音を立てながら手紙を畳んだダイアンの隣で、オルカイトルムネが億劫そうに口を開く。
「まあ、こういうことだ。正式に婚姻の申し込みという訳では無いが、それと大差ないだろう。
何のためにお前をここまで城で育てたと思っている。できる限り良い条件で婚姻を結ぶのだ。
何処の国の輩かはわからんが、3日後と言っているのだから必ず来るはずからな。
3日後、まさか忘れてはいないだろう?
成人式だ、お前の。」
そうか、3日後は、私の―――成人式、17の誕生日だったのだ。
私にとっては、時間の経過なんてどうでもいいことだから。すっかり忘れていた。
誕生日なんて、どれだけ退屈な日々を刻んだかを自覚するための、必要の無い日。
ぼんやりと考えながら、私はオルカイトルムネの言葉に言いようのできない昏い気持ちが湧き上がるのを感じた。
「父上!自分の娘に何ということを!」
隣で兄様が憤ったように声を荒らげる。
こんなときでさえ、自分では何も言い返せないだなんて。
自分で言い返せもしないのに、反抗心だけは抱くなんて。
私は、やっぱり臆病で卑怯な人間だ。


