そんな思いは届かない。
オルカイトルムネは私を一瞥しただけですぐに視線を外した。
「カムル。何故お前がここに居るんだ」
そう言って私の隣に立つ兄様を軽く睨む。
兄様は足を微かに震わせながらも、優雅に腰を折り、気丈に微笑んでみせた。
「いえ、妹に縁談が舞い込んだと、耳に挟みまして。たったひとりの妹ですから。是非私も詳しくうかがいたいのですが良いですよね?」
有無を言わさない圧力を持った笑みをもって話す兄様の言葉に、オルカイトルムネは軽く舌打ちする。
「はあ、全く人の口に戸口は建てられないとはよく言ったものだな。この話は宰相を始めとする数人の大臣と、侍女長のリーンしか知らないはずだというのに。大方リーン辺りが廊下で話していたのだろうな・・・なあ、ダイアンよ」
そう嘆息する国王に、彼の斜め後ろに控えているダイアンと呼ばれた赤髪の男が応えた。
「ええ、全くでございます、国王様。」
彼が、ダイアン・ルクムエルク。
セルティカ王国の宰相で、政治に疎い私が見ても国王を手玉にとっているのがわかるくらいに、狡猾で、賢い。
「まあ、良いではありませんか。大切な妹の門出ですから、カムル様が祝福したいと思う気持ちはよくわかります。
国王様に良く似て、素晴らしいお方です」
現に、今もオルカイトルムネに向かってたしなめるように語りかけると、彼は、まぁ、そうだな、などと呻いて押し黙る。
ダイアンはそれを満足そうに見た後、私に視線を合わせてきた。


