兄様の手に押されてゆっくりと開く豪奢な扉。
そこから続く、赤絨毯の長い道。
降り注ぐ、シャンデリアの目が痛くなるほど眩い光。
足が竦んだのがわかったのか、兄様が私の手をそっと取った。
泳ぐ私の黄金を捕らえて、彼は幼子に言い聞かせるようにゆっくりと私に語りかける。
「大丈夫だよ、アムリィ。僕がいるから。喋れない君の代わりに、僕が父上にお願いしてみるよ。結婚の件を、考え直してください、と」
嘘だ。私は唇を強く噛み締めた。
考え直してもらったら、あなたが困るんだよ、兄様。
私が、まだここに居座ることになるんだから。
だから―――嘘だ。
だって、これが嘘じゃないと言うなら、今までの兄様の態度だって、全て本当の優しさということになってしまう。
私は兄様に手を引かれながら、思い違いに決まっている心を疼かせる少しの暖かい感情に、どうしようもなく声を上げて泣きたい気分になって、繋がれていない方の手で口を覆った。
*
「―――アムネシアスムリィ」
「・・・っ」
返事の代わりに私は膝を曲げお辞儀をする。
姿を見た瞬間溢れ出す黒い感情に、赤い床を睨んだ。
オルカイトルムネ。
貴方のせいで、私の人生は崩れていく一方だ。
・・・貴方は―――私の、父様なのでしょう?
それなのに、私が少し異端に生まれてきたからって、娘のことをこんな風に道具みたいに扱うの・・・?


